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関係者各位 2007年4月6日
株式会社ジャパン通信社

社説から読み解く日本と世界
第1回「鹿児島選挙違反事件」-全国紙・地方紙22紙調査

新聞、雑誌などの情報検索を行なっている株式会社ジャパン通信社(東京都中央区 代表取締役:鈴木和夫)では、全国紙・地方紙の社説を比較調査していくことになりました。
第1回目の今回は、本年2月23日に鹿児島地方裁判所で被告12名全員に無罪判決が言い渡された「鹿児島選挙違反事件」について取り上げます。
この「鹿児島選挙違反事件」は、2003年4月の鹿児島県議選をめぐり、同県志布志市の元県議・中山信一氏とその支援者の計12名が公職選挙法(買収・非買収)に問われた事件です。公判では警察や検察のずさんな捜査、家族の名前を書いた紙を足で踏ませる「踏み字」で自白を迫るような異常ともいえる取り調べが取り上げられ、判決では「事件そのものがなかった」と認定されました。
痴漢冤罪事件をテーマにした周防正行監督の映画「それでもボクはやってない」や2年後に始まる国民裁判員制を前に、国民の司法制度に対する関心が高まっていますが、国民の理解が十分とはいえません。その啓発になることをねらいとしています。
なお、記事の解釈は当社の責任であり、あくまで文面のみで行っております。

[事件・判決についての総括]

取り上げた全ての新聞が、今回の事件を許されない、重大な人権侵害であると厳しく批判している。起こるべくして起きた事件と捉える新聞もある。
「京都(2/28)」:「自白さえ引き出せば立件できる」に表れるように、密室で長時間の取り調べを延々と続け、被疑者を「落とす」捜査は、日本の警察独特の手法。被疑者に対する誘導や強要につながりやすく、冤罪を生み出す温床になるため、先進諸国ではほとんど見られない。安易にこの手法に頼り、行き過ぎた結果だ。
  「神戸(2/24)」:密室での長時間の取り調べが冤罪を生む、と口をすっぱく言われてきた。それによって犯罪者の汚名を着せられてきた人は数知れない。その過ちが繰り返された。

[事件の背景]

今回の事件が起きた原因を各紙からまとめると次の3つになる。
    1. 自白の強要、自白偏重捜査
    2. 捜査幹部の暴走
    3. 検察のチェック機能不全
このうち、1. については、背景の中心となるため全ての新聞で触れている。
「神戸」「中国(2/25)」では、さらに選挙違反・買収事件の特質として自白偏重になりやすいことを指摘する。
「選挙違反などは、密室のケースが多く、捜査で物証を得にくいのは確か」(中国)
「物的証拠が乏しいと、警察は被疑者の自白に頼らざるを得なくなる」(神戸)
また、「南日本(3/7、3/9)」および「新潟日報(2/24)」が法律の条文を引いて、今回の出来事が許されないことであると読者にも注意を喚起している点は秀逸である。
このうち「南日本(3/7)」では、戦前の治安維持法の下で、特高警察が事件を捏造し、無実の人に罪を着せた反省から、現憲法ではそのようなことが起きないように決意を込めているとして、第38条を全文引用。その上で、次のように糾弾している。
「捜査員が威圧的な言葉や態度、長時間の取り調べなどで、容疑者を精神的に追い詰めて自白を引き出そうとする取り調べの手法は、明らかに憲法違反なのだ」

さて、無理に無理を重ねる捜査・立件が起きた原因としては、2. 捜査幹部の暴走なのだが、この点については「朝日(2/24)」「南日本(3/9)」の2紙が指摘する。
「朝日」:地元に設けた捜査本部の幹部の独断で取り調べが進み、都合のよい情報しか県警本部や鹿児島地検に上がらなかったという。
「南日本」:自白を得ようとして捜査が暴走するのに、歯止めをかけられなかったのは残念。内部には異論もあったようだが、立ち止まって捜査を一から見直す機械は封じられた。選挙違反の摘発を意識するあまりのこととしたら、それを許した県警の体質も問題だ。

警察段階での捜査がずさんであっても、それを防ぐ手段はまだ残されていた。それが、3. 検察のチェック機能不全であり、この点については「朝日」「東京・中日」「読売」「新潟日報」「高知」(以上2/24)「沖縄タイムス(2/27)」「京都(2/28)」「西日本(3/7)」の各紙が批判する。そのうちの一部として、
「京都」:十分な検証なしに起訴に踏み切った地検の責任は重大だ。

「東京・中日」:なりふり構わず自白させようとした密室での警察の取り調べに対し、補充捜査で検証するのが役割の検察は、何をしていたのか。

「読売」:ずさん捜査を見過ごした検察の責任も重大である。

「沖縄」:検察側はなぜチェックできずに公訴の提起に踏み切ったのか。

「西日本」:捜査過程や起訴に無理な点がないか、冷静に判断すべき検察までが判断を誤ったのはなぜだったのか。

[対応・防止策]

今回のような悲劇を防ぐ手段として、一部を除く各紙が取り調べの模様を録画、録音する「可視化」の必要性を訴える。これについては、2009年に始まる予定の裁判員制度を意識した記述が多い。重大事件に限り、国民が刑事裁判に参加するものだが、プロの裁判官でも困難な自白の信用性の判断を、「素人」である国民がすることの意味を捉えてのことである。

この可視化は、現在でも東京地検で試験的に行われており、全国の地検でも一部可視化に踏み切ることが決まっているが、警察段階への拡大を主張する点に各紙に差異はない。しかしながら、それが進まないのは当局が反対しているからだと唱える新聞社もある。

「佐賀(2/24)」:日弁連によれば、可視化に捜査員は反対しているという。録画録音されていると被疑者が真実を話したがらなくなるという理由だ。

「京都」:警察庁は「可視化すると、被疑者が身構えて真実を話さなくなる」と、絶対阻止の構えだ。

「徳島(2/26)」:警察段階の取り調べを含む「可視化」の全面導入については国家公安委員長が判決直後の衆院予算委員会で消極的な見解を示している。

「南日本(2/24)」:「捜査に支障をきたす」と警察や検察の反対も根強いが、可視化を加速しなければならないのは、国際的にみても必然的な流れである。

また、「南海日日(3/5)」が唯一、「必要に応じては弁護士の立会いも、認めるような法整備を求めたい」と一歩踏み込んだ主張をしているのは特筆に価する。
反対に、「産経(2/24)」はこの可視化について「今回の事件、判決も参考に、どこまで導入すべきかを適切に判断してもらいたい」と警察・検察に配慮した煮え切らない表現であった。

[寸評]

各紙とも今回の事件を重要視し、言葉は違えど「警察の犯罪」として厳しく批判している。「朝日」「西日本」「南日本」の3紙は、無罪判決と地検控訴断念のそれぞれを別個に社説で取り上げ、この問題に対する姿勢が際立っていた。中でも「南日本」 は、[事件の背景]でも取り上げたように、単に地元であるというだけでない強い思い入れを感じた。
一方で、「可視化」の点-とりわけ警察段階への拡大-については、取り上げた各誌を含めもう少し踏み込んでよかったのではないか。無罪確定を受け、今後は可視化へと議論の中心が移っていくであろう。
警察庁は「取り調べは、捜査官と被疑者との信頼関係を構築する中で行われるもので、録画・録音は信頼関係の構築の支障になる」と主張している。国家権力そのものである捜査官と被疑者の間の圧倒的な力関係の差がありながら、「信頼関係」などあるはずがないのに、それを持ち出すという不自然さについて触れていないのは不十分である。
「朝日」2度目の社説(3/11)では、判決後の鹿児島県警の対応をめぐり警察という組織の体質に疑問を投げかけている。自分たちを正義だと信じて疑わない警察や検察は実は自分たちには甘い。過去の不祥事から何も改善されないその病巣を深くえぐる新聞社が少なかったのは残念だ。


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